挿話/巨人の掌

私たちは何も理解していなかった。


先人たちが過ちに至った理由を。
自分たちが目指していた物の正体を。


絶望は悪意からは生まれない。


良かれと行われる行為の
積み重ねを温床に、それは育つ。


だが、私たちの試みを誰が否定できよう。
糾弾する者がいるなら教えてほしい。


明日の為、足掻くことすら諦めるなら
その生に何の意味があるのか。


   ――煌天破ノ都より見つかった
              古い手記より


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

核を打ち砕かれた巨人は膝をつく。


そして、
無数の蔓が体躯の至る所から生え、
君たちに向け伸び始める。


蔓は束ねられ、腕の形を取る。
その手の平にあるものは...


膝を抱え、丸まった巫女だった。


彼女はゆっくりと起き上がると、
君たちに向け手を振る。

「ありがとう。
みんなが来てくれるって、信じてたよ」


抱き合って喜ぶ君たち。だが、
その余韻に浸る間もなく
彼女は毅然とした顔で君たちに告げる。


「あのね、みんなに連れて行って欲しい
場所があるの。手伝って!」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・・・
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「バルドゥール! バルドゥール!」


巫女の声が辺りに響き、
絶望が覆い尽くす闇から、
彼は目を覚ます。


「良かった、バルドゥール」


黒衣の皇子を抱きしめ、
喜びを全身で表現する巫女。


多くの顔が彼を覗きこんでいる。
帝国の兵だけではない。


タルシスの兵や冒険者、
彼が世界樹を使い命を奪おうとしていた
ウロビトやイクサビトまでいる。


皆、瓦礫に埋もれた皇子を助けるため
力を尽くした者たちだ。


巫女の世界樹への呼びかけで
皇子を蝕んでいた病は浄化されていた。


既に君たちと剣を交えた時の面影はない。


「もう怖いことしないでね...
何でも話して?
わたしも、みんなも、一緒にいるから。
どうしたらいいか考えようよ」


震える声で訴える巫女。


皇子は口を開くが、
その想いは声にならない


喉が潰れ、声が出せない彼は
腕を伸ばした。


彼女の頭を、そっと撫でる。


涙をためるその瞳で、少女は見た。
皇子の顔には、
穏やかな微笑みが浮かんでいた。


... ... ...

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
TOP 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 ALL

世界樹の迷宮IV 伝承の巨神